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心的外傷後ストレス障害

F43.1 心的外傷後ストレス障害 Post-traumatic stress disorder

 

疾患の具体例

24歳、女性。友人らと街を歩いている時、突然、車が突進してきて、歩道にいた人達をはねる事故にあいました。奇跡的に自分は軽症で済みましたが、友人は重傷を負い、他にその場にいた人の中には死亡した人もいました。友人が苦しむ様子や、亡くなった人の様子を目撃したことがショックで、何度もその場の状況を思い出して怖くなります。何もしていなくても涙が流れ、好きだった音楽も楽しめず、感情が麻痺したように感じます。事故のあった場所は勤務先のすぐ近くだったため、出勤することもできなくなりました。そうした状態が1ヵ月以上続き、医師からは「心的外傷後ストレス障害」と診断されました。

 

特 徴

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、自然災害や激しい事故、他人の変死の目撃、拷問、テロ、強姦、他の犯罪の被害など、ほとんど誰にでも大きな苦痛を感じるような出来事(心的外傷的出来事)を経験した後、長く続くストレス反応のことです。

WHOの診断ガイドライン「ICD-10」によると、典型的な症状には、無感覚と情動鈍麻、他者からの孤立、周囲への鈍感さ、アンヘドニア(無快楽症、快楽消失)、トラウマ(心的外傷的出来事)を思い出させる活動や状況を避けることが挙げられます。本人の意思とは無関係に、嫌でもトラウマを思い出してしまう侵入的回想(フラッシュバック)、あるいは夢の中で繰り返し心的外傷的出来事を再体験する場合もあります。過剰に意識が覚醒したり、物音などに驚きやすくなったりする驚愕反応、不眠などもよくある症状です。不安と抑うつがあり、自殺念慮に苦しむ人もまれではありません。

アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5」には、よくある症状がより詳細に記されています。それによるとPTSDの症状は多様で、ある人は恐怖に基づく再体験と感情的行動的症状が強く現れ、またある人は快楽消失や不機嫌な気分、否定的な気持ちが最も苦痛なことがあります。

PTSDの重要な側面として、想起不能(思い出せない)がありますが、これは解離性健忘によることが一般的で、頭部外傷やアルコール、薬物によるものではありません。

患者さんによっては、自分や他者について過剰に否定的な考え方をします。例えば、「私はいつも間違った判断をしてきた」「権威者はまったく信用できない」などと思うのです。また、心的外傷的出来事の原因について、「叔父さんが私を虐待したのは、私が悪いからだ」などとゆがんだ認識を持つこともあります。かつて楽しんでいたことを楽しめなくなったり、怒りっぽくなったりする人もいます。

 

有病率

アメリカの成人における12ヵ月有病率は約3.5%です。ヨーロッパやアジアなどの国々ではもっと低く見積もられており、0.5〜1.0%程度です。最も発症率が高くなる出来事は強姦、戦争における戦闘員や捕虜となること、民族的あるいは政治的理由による抑留、虐殺の被害にあう危険性で、経験者の1/3〜1/2がPTSDになります。

 

経 過

症状の持続期間はさまざまで、成人の約半数は発症から約3ヵ月以内に完全に回復しますが、12ヵ月以上、時に50年以上続く人もいます。最初の心的外傷的出来事を思い出させる物事、持続する生活上のストレス、または新たに体験した心的外傷的出来事に反応して、症状が再発したり強まったりすることがあります。高齢者では、健康の衰え、認知機能の悪化、社会的孤立が症状を悪化させる可能性があります。

 

原 因

PTSDを引き起こす一次的な病因は、大きなストレスを感じる心的外傷的出来事です。しかし、すべての人が心的外傷的出来事の後にPTSDになるわけではありません。心的外傷的出来事に遭遇する前後の出来事や、生物学的要因、心理社会的要因が重なってPTSDを発症する場合もあります。また、大災害の生存者は「生き残ってしまって申し訳ない」などと罪責感を持ち、それがPTSDの発症や悪化を引き起こすかもしれません。

 

治 療

PTSDの第1選択治療薬はSSRIです。SSRIは、うつ病や他の不安障害と同様の症状ばかりではなく、PTSD特有の症状にも効果があります。他に有用な治療薬としては、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)、抗けいれん薬などです。なお、PTSDに抗精神病薬が有用であるという資料はほとんどありません。重篤な攻撃性や焦燥を抑えるために短期間使用する場合を除き、ハロペリドールのような薬物は避けるべきだとされています。

PTSDの患者さんへの精神療法は、多くの場合、精神力動的(精神分析的)精神療法が有効だと考えられています。しかし、患者さんによっては心的外傷的出来事の再体験に圧倒されてしまうため、個別に対応を考えなくてはなりません。

 

診断基準:ICD-10

例外的に強いトラウマとなる出来事から6ヵ月以内に起きたという証拠がなければ、一般にはこの診断をくだすべきではない。臨床症状が典型的であり、他にいかなる障害(例えば不安、強迫性障害、あるいはうつ病エピソード)も同定できなければ、出来事から発症までの遅れが6ヵ月以上であっても、依然として「推定」診断は可能であろう。トラウマの証拠に加え、回想、白昼夢、あるいは夢における出来事の反復的、侵入的な回想あるいは再現がなければならない。顕著な情動的分離、感情の鈍麻、およびトラウマの回想を呼び起こすような刺激の回避がしばしば認められるが、診断にとって本質的ではない。自律神経障害、気分障害、および行動異常はすべて診断の一助となるが、根本的な重要性はない。 壊滅的ストレスの遅発性で慢性的な結果、すなわちストレスの多い体験から数十年経て発症するものは、F62.0に分類すべきである。

 

診断基準:DSM-5

注:以下の基準は成人、青年、6歳を超える子どもについて適用する。6歳以下の子どもについては後述の基準を参照すること。

A. 実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうだった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする。
    (例:遺体を収容する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。
    注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。

B.心的外傷的出来事の後に始まる、その心的外傷的出来事に関連した、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の侵入症状の存在。

  1. 心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
    注:6歳を超える子どもの場合、心的外傷的出来事の主題または側面が表現された遊びを繰り返すことがある。
  2. 夢の内容と情動またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢
    注:子どもの場合、内容のはっきりしない恐ろしい夢のことがある。
  3. 心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)。
    注:子どもの場合、心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。
  4. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛。
  5. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに対する顕著な生理学的反応。

C.心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避、心的外傷的出来事の後に始まり、以下のいずれか1つまたは両方で示される。

  1. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情の回避、または回避しようとする努力。
  2. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を呼び起こすことに結びつくもの(人、場所、会話、行動、物、状況)を回避しようとする努力。

D. 心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。

  1. 心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)。
  2. 自分自身や他者、世界に対する持続的で過剰に否定的な信念や予想(例:「私が悪い」、「誰も信用できない」、「世界は徹底的に危険だ」、「私の全神経系は永久に破壊された」)。
  3. 自分自身や他者への非難につながる、心的外傷的出来事の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識。
  4. 持続的な陰性の感情状態(例:恐怖、戦慄、怒り、罪悪感、または恥)。
  5. 重要な活動への関心または参加の著しい減退。
  6. 他者から孤立している、または疎遠になっている感覚。
  7. 陽性の過剰を体験することが持続的にできないこと(例:幸福や満足、愛情を感じることができないこと)。

E. 診断ガイドラインと関連した、覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。

  1. 人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り。
  2. 無謀なまたは自己破壊的な行動
  3. 過度の警戒心
  4. 過剰な驚愕反応
  5. 集中困難
  6. 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)

F. 障害(基準B、C、DおよびE)の持続が1ヵ月以上

G.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または両親や同胞、仲間、他の養育者との関係や学校活動における機能の障害を引き起こしている。

H. その障害は、物質(例:医薬品またはアルコール)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

いずれかを特定せよ

解離症状を伴う:症状が心的外傷後ストレス障害の基準を満たし、次のいずれかの症状を持続的または反復的に体験する。

  1. .離人感:自分の精神機能や身体から離脱し、あたかも外部の傍観者であるかのように感じる持続的または反復的な体験(例:夢の中にいるような感じ、自己または身体の非現実感や、時間が進むのが遅い感覚。
  2. .現実感消失:周囲の非現実感の持続的または反復的な体験(例:まわりの世界が非現実的で、夢のようで、ぼんやりし、またはゆがんでいるように体験される)。
    注:この下位分類を用いるには、解離症状が物質(例:意識喪失)または他の医学的疾患(例:複雑部分発作)の生理学的作用によるものであってはならない。

該当すれば特定せよ

遅延顕症型:その出来事から少なくとも6ヵ月間(いくつかの症状の発症や発現が即時であったとしても)診断基準を完全には満たしていない場合。

 

6歳以下の子どもの心的外傷後ストレス障害

A. 6歳以下の子どもにおける、実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人、特に主な養育者に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 親または養育者に起こった心的外傷的出来事を耳にする。

B. 心的外傷的出来事の後に始まる、その心的外傷的出来事に関連した、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の侵入症状の存在:

  1. 心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
    注:自動的で侵入的な記憶は必ずしも苦痛として現れるわけではなく、再演する遊びとして表現されることがある。
  2. 夢の内容と情動またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢
    注:恐ろしい内容が心的外傷的出来事に関連していることを確認できないことがある。
  3. 心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)。このような心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。
  4. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛。
  5. 心的外傷を想起させるものへの顕著な生理学的反

C. 心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避、または心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化で示される、以下の症状のいずれか1つ(またはそれ以上)が存在する必要があり、それは心的外傷的出来事の後に発現または悪化している。

刺激の持続的回避

  1. 心的外傷的出来事の記憶を喚起する行為、場所、身体的に思い出させるものの回避、または回避しようとする努力。
  2. 心的外傷的出来事の記憶を喚起する人や会話、対人関係の回避、または回避しようとする努力。

認知の陰性変化

  1. 陰性の情動状態(例:恐怖、在宅感、悲しみ、恥、混乱)の大幅な増加
  2. 遊びの抑制を含め、重要な活動への関心または参加の著しい減退
  3. 社会的な引きこもり行動
  4. 陽性の情動を表出することの持続的減少

D. 心的外傷的出来事と関連した覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化しており、以下のうち2つ(またはそれ以上)によって示される。

  1. 人や物に対する(極端なかんしゃくを含む)言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り
  2. 過度の警戒心
  3. 過剰な驚愕反応
  4. 集中困難
  5. 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)

E. 障害の持続が1ヵ月以上

F. その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または両親や同胞、仲間、他の養育者との関係や学校活動における機能の障害を引き起こしている。

G. その障害は、物質(例:医薬品またはアルコール)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

いずれかを特定せよ

解離症状を伴う:症状が心的外傷後ストレス障害の基準を満たし、次のいずれかの症状を持続的または反復的に体験する。

  1. .離人感:自分の精神機能や身体から離脱し、あたかも外部の傍観者であるかのように感じる持続的または反復的な体験(例:夢の中にいるような感じ、自己または身体の非現実感や、時間が進むのが遅い感覚。
  2. .現実感消失:周囲の非現実感の持続的または反復的な体験(例:まわりの世界が非現実的で、夢のようで、ぼんやりし、またはゆがんでいるように体験される)。
    注:この下位分類を用いるには、解離症状が物質(例:意識喪失)または他の医学的疾患(例:複雑部分発作)の生理学的作用によるものであってはならない。

該当すれば特定せよ

遅延顕症型:その出来事から少なくとも6ヵ月間(いくつかの症状の発症や発現が即時であったとしても)診断基準を完全には満たしていない場合。

 

※参考文献

『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)

『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)

『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)

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