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急性ストレス反応

F43.0 急性ストレス反応 Acute stress reaction

急性ストレス障害 Acute Stress Disorder

 

疾患の具体例

23歳、女性。勤務先の飲食店で火事が起きました。火が上がり煙の立ちこめる中、客を誘導しているうちに逃げ遅れ、「もうだめだ」と思ったところ、消防隊に救出されました。2週間後、ヤケドや怪我は治りましたが、火事のことを何度も思い出して恐怖や不安に襲われます。眠っていても、夢で火事の様子が再現され、少しも気が休まりません。食事を作ろうと、台所でガスの火をつけた時も火事の様子が目に浮かび、その場にうずくまってしまいました。

 

特 徴

急性ストレス反応(障害)は、極めて大きなストレス因「心的外傷的出来事」に接してから一定期間、さまざまな症状が持続する障害です。

心的外傷的出来事とは、自然災害や事故、火災、暴行、強姦など、自分や愛する人の死、死を意識する出来事、あるいは尊厳を著しく侵害する出来事などのことです。

急性ストレス反応(障害)は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と似ていますが、症状が続く期間が異なります。『カプラン 臨床精神医学テキスト』によると、急性ストレス反応(障害)は心的外傷的出来事から4週間以内に発症し、2日〜4週間以内に消えるとしています。4週間以上にわたって症状が続く場合は、PTSDと診断されるのが妥当としています。

症状は人によって異なりますが、典型的には心的外傷的出来事の「再体験」や、それに反応した不安症状です。再体験とは、自分の意思に関係なく心的外傷的出来事を思い出し、その時の強烈な恐怖や不安を再び感じることです。心的外傷的出来事が起きた時の夢を見て、再体験と同様に恐怖や不安を感じる人もいます。「フラッシュバック」といって、心的外傷的出来事を思い起こさせる音や光、臭いなどに反応して記憶がよみがえることもあります。

ほかに、気分が沈んで幸福や満足、愛情を感じることができない状態が続いたり(陰性気分)、ぼーっとして自分が自分を見下ろしているような感覚(解離症状)になったりもします。あえて心的外傷的出来事を思い出さないように努めたり、思い出すような場所、人、物、状況などを避けたりすることもあります(回避症状)。また、意識が覚醒しすぎて十分に眠れなくなったり、イライラしたり、物事に集中できなくなったりすることも、よくある症状の1つです。

 

有病率

急性ストレス反応(障害)の有病率は、心的外傷的出来事の性質などによって異なります。

アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5」によると、アメリカなどの調査では、対人暴力のない心的外傷的出来事のあとの症例は20%しか診断されない傾向にあります。例えば、自動車事故で13〜21%、軽度外傷性脳損傷で14%、重度熱傷で10%、産業事故で6〜12%です。一方、暴行、強姦、銃乱射の目撃など、対人暴力による心的外傷的出来事のあとには、より高い有病率(20〜50%)で報告されています。

経 過

心的外傷的出来事に接してから1ヵ月以内に寛解することがありますが、それ以上にわたって症状が続き、PTSDへと進展することがあります。PTSDになる人の約半数が、最初は急性ストレス障害を呈しています。なお、生活上のストレスや、さらなる心的外傷的出来事に接したために、最初の1ヵ月で症状が悪化することがしばしばあります。

 

原 因

気質要因:もともとの精神疾患、強い陰性感情(怒り、恐れ、不安、孤独感、嫌悪感など)、心的外傷的出来事を深刻にとらえすぎる傾向などは、急性ストレス反応(障害)の危険を増大させる原因となります。

環境要因:急性ストレス反応(障害)のきっかけとなる出来事に触れること(過去の心的外傷体験も含む)。

遺伝要因と生理学的要因:女性は急性ストレス反応(障害)になる危険性が高いとされています。また、心的外傷的出来事に触れる前の、音に対して過剰に驚く傾向がある場合は、急性ストレス反応(障害)の危険を増加させます。

 

治 療

医師が心的外傷的出来事を受けた人に接する時は、まず、その人の言っていることを支持し、励まし、リラクセーションなどのさまざまな対処方法について教えます。薬物療法では、鎮静薬、催眠薬が役に立ちます。

 

診断基準:ICD-10

例外的に強いストレス因の衝撃と発症との間に、即座で明らかな時間的関連がなければならない。発症は通常、直後ではないにしても、数分以内である。それに加え、症状は、

  1. 混合した、しじゅう変動する病像を呈する。初期「困惑」状態に加えて、抑うつ、不安、激怒、絶望、過活動、および引きこもりのすべてがみられることはあるが、1つのタイプの症状が長い間優勢であることはない。
  2. ストレスの多い環境からの撤退が可能な場合、急速に(せいぜい数時間以内で)消失する。ストレスが持続するか、その性質上取り消すことができない場合、症状は通常24〜48時間後に軽減し始め、通常約3日後に最小限となる。

この診断は、F60.-「特定のパーソナリティ障害」をのぞくほかの精神科的障害の診断基準を満たす症状をすでに示している個人においては、症状の突然の増悪に当てはめるために用いてはならない。しかしながら、精神科的障害の既往があっても、この診断の使用は許される。

 

診断基準:DSM-5

A.実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接経験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 近親者または親しい友人に起こった出来事を耳にする。
    注:家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする。
    (例:遺体を収集する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。
    注:仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。

B. 心的外傷的出来事のあとに発現または悪化している。侵入症状、陰性気分、解離症状、回避症状、覚醒症状の5領域のいずれかの、以下の症状のうち9つ(またはそれ以上)の存在。

侵入症状

  1. 心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶。
    注:子どもの場合、心的外傷的出来事の主題または側面が表現された遊びを繰り返すことがある。
  2. 夢の内容と情動またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢。
    注:子どもの場合、内容のはっきりしない恐ろしい夢のことがある。
  3. 心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる。またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)。
    注:子どもの場合、心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。
  4. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに反応して起こる、強烈または遷延する心理的苦痛または顕著な生理的反応。

陰性気分

  1. 陽性の情動を体験することの持続的な不能(例:幸福、満足、または愛情を感じることができない)。

陰性気分

  1. 周囲または自分自身の現実が変容した感覚(例:他者の視点から自分を見ている、ぼーっとしている、時間の流れが遅い)。
  2. 心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)。

回避症状

  1. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を回避しようとする努力。
  2. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を呼び起こすことに結び付くもの(人、場所、会話、行動、物、状況)を回避しようとする努力。

覚醒症状

  1. 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)
  2. 人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り
  3. 過度の警戒心
  4. 集中困難
  5. 過剰な驚愕反応

C. 障害(基準Bの症状)の持続は心的外傷への曝露後に3日〜1ヵ月。

注:通常は心的外傷後すぐ症状が出現するが、診断基準を満たすには持続が最短でも3日、および最長でも1ヵ月の必要がある。

D. その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

E. その障害は、物質(例:医薬品またはアルコール)または他の医学的疾患(例:軽度外傷性脳損傷)の生理学的作用によるものではなく、短期精神病性障害ではうまく説明されない。

 

※参考文献

『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)

『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)

『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)

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